アヒルネ

全く為にならない文章の数々です。

インフルエンザの恐ろしい合併症・中二病

 

 

殺気。


穏やかに晴れた火曜日の朝9時。明らかに私への敵意を持って発せられるそれは、量として僅かではあったが、私の目を覚まさせるには十分な気迫を含んでいた。


身を起こすと「彼」はベッドのすぐ側に立ち、腕を組み、こちらへ鋭い眼光を向けて、ニヤニヤ、としていた。

 

端正な顔立ち、つり上がった目、スラリとしたモデル体型、金髪をポマードで固めたヘアスタイルに白のタキシード……。

 

お、お前、もしや……。


私はついに時が満ちたことを悟った。


永きに渡る闘いの輪廻が、再びこの時代に蘇り、また大きく鼓動を始めたのだ……と。

 

 

 

いや。


しかし、勘違いかもな、とも思った。


そうだ、勘違いだ。そうに違いない。と思った。


トイレに行ってもう一回寝れば、きっと平穏な日常が戻ってくると、そう信じていた。


そして私は、白スーツの金髪男性を悠然とスルーして用を足すと、再び眠りについた。

 

 

 

 

 

 

次に目覚めたのは朝の12時だった。もう朝とかいうレベルの時間ではない。さっさと学校に行った方がいい時間帯だ。


急いで身体を起こす。

しかし、ここで同時に臨戦態勢にも入る。

 

 

やれやれ、これはこれは。

 

途轍もない存在感と共に、一人の男がベッドの横で腕組みをしていたことが、その原因だった。

 


白のタキシードはそのままに、その金髪は天に向かってそびえ立ち、3時間前とは別人のような只ならぬ殺気を放ち、途轍もない腕組みをして、それが仁王立ちしていた。腕が複雑に組み合わさり、神秘的に絡み合い、知恵の輪の様相を呈した、途轍もない腕組みをしている。途轍が、全く無い。

 

 

「彼」だった。

 


「どうやら、夢……じゃないみたいだな……。」

 


私がそう話しかけると、彼はゆっくり微笑み、響きのある透き通った声でこう言った。

 


『また会えて嬉しいよ……さあ、殺ろう。』

 


彼と会うのは初めてでは無かった。

そしてこれから始まる、己の肉体、精神、そして世界の時間軸やらパラレルワールドの亜空切断やら何やらを掛けた熾烈な1 on 1(サシ)、どちらかが死ぬまで続く過酷なデスマッチから逃れられないこともまた、知っていた。

 

 

 

 

 

 

一陣の風が吹いた。

 


先に動いたのは彼だった。彼は絡まった腕を巧みに操り、懐から何かペンのような、スティック状の物体を取り出すと、私へ向かって一閃。投げつけた。

 


スティック状のそれはブーメランの如く回転したかと思えば、美しい弧のような軌道を描き、そして、私の左脇に突き刺さった。

 


デュクシッッッ………!

 


「ぐっ…。」

 


スピード重視の先制攻撃か。さしてダメージは無かった。過去の彼の実力を考えると、前菜としては少し味気ない。ていうか、本当にこういう音って鳴るんだ。

 

私には余裕があった。

 


「どうした、その程度か?」

 


スティック状のそれを左脇に刺しながら、彼を挑発してみたり、する。苦戦を強いられながらも、これまでの闘いで悉く勝利を収めてきた王者としての貫禄を見せつける為だ。

 


『クックッ……クックックッ……』

 


しかし、彼は不気味な満足感を湛え、肩を揺らしていた。

この状況で、笑った、だと?

 


「何が可笑しい。」

 


『クッハッッハ、んー、これは傑作だ。まだ自分が置かれている状況に気付かないのかい?』

 

 

 

な…ん……だと……?

 

 

 

『フフフッ、おめでたい君の為に一ついいことを教えてあげよう。』

 

 

 

いいこと…?

 

 

 

『君の脇に刺さった、そのスティック状の物体を、目を凝らして、よく見てみるといい…。』

 

 

こ…。

 

 

これは……。

 

 

 

『フフ、ボクからの軽ゥいオードブルは、お口に合ったかな……?』

 

 

なるほど…こいつぁ、ちと厄介だな…。

 

敵の力量も、遥か怪物。

 

 

 

 

だが。

 

 

下らん。

 

勝利の光とは、自分の能力(チカラ)、そして自分の運命(サダメ)を、最後まで信じた者にのみ、輝くものだ。

 

疑わないこと。

 

それこそが真の強さ。

 

私は脇のスティックを静かに抜き取り、信念に満ちた笑みを浮かべ、こう呟いた。