初売りに押し寄せる方々はイノシシを意識しているのか
それはもはや人間ではなく、イノシシそのものだった。猪突猛進とはあの事を言うのだ。
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今年、人生で初めて初売りで「売る側」の立場に立った。
某有名アパレルショップでアルバイトをしており、初売りの人員が足りないとのことで不本意ながら強制招集されたのだ。
と言っても、これまで本格的に「買う側」として参加したこともなかった私は
初売り? みんな家でゴロゴロしてんだから人なんて来る訳がないやんけヨユウだわ
と高を括っていた。
甘かった。
開店早々、アホみたくお客様、来た。
つか、並んでんですよ。
めちゃめちゃ並んでるんです、寒い中。
衝撃だった。本当にあるんだこういうの、って。ニュースで見たことあるやつじゃん。
いや、確かにヒートテックめっちゃ安くなってるけど。カシミヤのセーターとか半額やけど。そんなカシミヤのセーター欲しい? なんなの、ヤギなのか君達は。仲間の毛を集める復讐と憎悪の塊なのか。
そんなツッコミを入れている隙にも彼らは売り場を縦横無尽に疾走する。
いやまて。違う。あの脚力は。あのスピードは。あの審美眼は。あの突進力は。
ヤギなんて生易しいものじゃない。
そうだ。
あれは。
あれは、イノシシだ。
売り場を駆ける彼らが纏うオーラは、背後にイノシシの幻獣を具現化させていた。
なんだ。なんなんだ彼らは。
今年の干支を、イノシシを意識しているとでもいうのか?
と、そんなことを考えていたのも束の間、イノシシによる長蛇のレジ列が生成される。
イノシシであり、長い蛇。
それはもはや最凶のクリーチャーだった。
我々、正月で平和ボケした人間に敵う道理なのどない。なす術なく、その猛進と毒牙に晒され、ただ、ただ、疲れた。今、ひたすらに、めっちゃ眠い。
弊社の初売りは明日も続く。明日もまた、彼らは津波のように押し寄せるのだろう。
イノシシのオーラを纏い、売り場で暴れ回り、辺り一面を、一人暮らしの男性の部屋みたくして、静かに去っていく。
まあ、それはそれで我が家に帰って来たような、アットホームな感じが出ておれは嫌いじゃないけど。
でも、それを綺麗にしないとおれが社員さんに怒られる。全くもって不条理だ。求人広告では「アットホームな職場」と謳ってたくせに。
あ。明けましておめでとうございます。