アヒルネ

全く為にならない文章の数々です。

お父さんのカッコいい嘘

 

クリスマスだ。

今年も容赦なく予定がないので実家に戻ってきた。

そしたら今朝、もう23なのにプレゼントが届いていた。サンタクロースだ。

 

f:id:m_1isi-2tori:20181225205304j:image

靴下。いや柄よ。サンタのセンス。まあありがとう。

 

 


「サンタクロースというおじいさんがクリスマスイブの夜、空飛ぶトナカイのソリに乗り込み、世界中の家庭に煙突から不法侵入しては子供達にプレゼントを配る」

 

という怪しげな伝説は、まあ、多分嘘だ。

明確に存在しないことを証明できた訳ではないが、まあ、多分嘘。

 

 

だって知らないおじいさんが来るって何。全世界の子供に無償でプレゼントを配るって何。どんだけ大富豪なの。

しかも from フィンランド。北欧て。遠いわ。

極め付けは空飛ぶトナカイ? プレゼントよりそいつが欲しいわ。

 

 


今はそんなことを言う冷めた大人になってしまったが、子供の頃はその嘘に熱狂する、敬虔なサンタ教徒の一人だった。12月とか、毎日わくわくして日常生活が超潤っていた思い出がある。

 


このお手伝いを完遂すればきっとポケモンのゲームソフトが。。!!

この宿題を乗り切ればきっとハリーポッターのレゴブロックが。。。!!、!

 


完全に魔法にかかっていた。人生がキマッていた。そういった意味ではとても素敵な嘘だ。

 


初手から「サンタクロースは俺だからよろしく。」と言ってプレゼントを手渡してくる鬼畜な親は、聞いたことがない。


親は子に優しい嘘を付き、一時の夢を見せる。

それを見た子供が成長すると、またその子供に夢を見せる。

 


ずっと続いてほしい、素敵な循環だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、そこでふと思い出したのが、

うちの父はサンタクロース実在詐欺以外にも、よく嘘を付いてたな。しかも今思うとやたらと下らない、素敵でもなんでもない嘘を、常習的に付いていたな。

ということだ。

 

 

 

例えばこんなのがある。

 

 

 

それはある晩、父と私の二人でお風呂に入っているときだった。

突然、父は言った。

 

 


「よし、お前は先に上がっていなさい。」

 

 


え?

 

 


いつもは一緒に上がっていたのに、今日は急に一人で上がれと通告された。当然、なぜ?と戸惑う。

 

 


すると父はこう続けた。

 

 


「お父さんは鏡の中を通って上がるから。先にドアから上がっていなさい。」

 

 

 

 

 


は?

 

 


な、なんだ、、この中年小太りの、この裸の男性は何を言っているんだ、、?

 

 

 

 

 


「いや、だから、お父さんはそこの鏡から一回鏡の世界に入って、そんで洗面所の鏡から出てくるから。それ他人に見られちゃダメだから。先に上がっていなさい。」

 

 


風呂場の鏡を指差して、そう言った。あたかも当然かのように、言った。1+1=2でしょ、くらいのノリで豪語していた。

 

 

 

そして、当時まだ青かった私は、それを信じた。

アホみたく信じた。

 

 


す、すすす、す、すっげえええっっ、、!!!!。。!

か、鏡の中を、、??!。。、?!

ドアがあるのに、、??!!!?

わざわざ???!!!

そんなに容易く鏡の中を移動出来るとでも言うのおぉおおおうおんお??!!!

 

 


これ絶対世界救ってるやつじゃん。星獣戦隊ギンガマンの一員なパターンじゃんとか思ってあっさり尊敬した。

 

 

 

それからと言うもの、私は父に師事し、一緒に風呂に入ってはその極意を学んだ。

自分も鏡の世界に入れる強い男に、星獣戦隊ギンガマンになろう、と固い決意のもと。

 

 

 

「違う。まずは鏡の前で目を閉じて、手を合わせろ。瞑想をするんだ。」

 

 

 

「そうだ、いいぞ。そしてそのまま肩を鏡に擦りつけろ。肩から行くのがポイントだ。優しくだぞ。」

 

 

 

「するとまるで水の中に溶け込んでいくような感覚があるだろ。そうすればもうこっちのものだ。」

 

 

 

そんな、謎の集中講義が開講されていた。

しかし努力の甲斐も虚しく、私は鏡の中へ入ることは出来なかった。

 

 

 

 

 


「まあ、あれだ。鏡の世界はとても広く、深い迷路のように複雑に道が入り組んでいる。子供のお前はまだ入場資格がないかもしれんな。」

 

 


「お父さんのように一人前の大人になれば、いずれお前も必ず入れるようになる。」

 

 

 

 

 

そんな感じのことを言われた。


鏡に向かい、ひたすら祈りを捧げ、必死に肩を擦り付ける息子を見て、彼は何を思っていたのだろうか。どんな思惑が、どんな教育理念があったのだろうか。


サンタクロースの時のように私に夢を見せたかったのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。あるいは本当に鏡の世界を移動できるのかもしれない。まあ、いずれにせよ今となっては正直どうでもいい。

 

 

 

 

 

しかし、もし前者なのだとすれば、その循環を私の代で絶やしてしまうのは、少しだけ忍びない気もする。

 

将来のことなどまだ何も考えていないが、私もいずれ結婚をし、子供が生まれ、そして一緒にお風呂に入る機会があるのかもしれない。


その時はいぶし銀な表情を浮かべ、少し声を低くして、神妙な口調でこう切り出すとしよう。

 


「お前は先に上がっていなさい。お父さんは鏡の中を通って上がるから。」