アヒルネ

全く為にならない文章の数々です。

進撃の巨人の最たる魅力はリヴァイ兵士長の圧倒的な強さ

 

やっと「進撃の巨人」という漫画を読んだ。

いま10周年かなんかの記念らしくて、1〜28巻が無料で読めるという素晴らしいキャンペーンを実施してらっしゃったので、直ちに一気読みさせて頂いた。本当にありがとう。

 


思うところがあったので感想を軽く述べておきたい。ネタバレをちょっとだけ含むので未読の方はここでブラウザバックをおすすめするが、リヴァイという男が最強すぎるという事実だけは覚えて帰ってほしい。

 

 


 

 


まず一読して思ったのは「リヴァイが最強すぎる」という一点に尽きる。強い。強すぎる。圧倒的に桁が違う。強すぎて笑ってしまう。それが如実に分かるシーンがいくつも存在する。

 

 


主人公のエレンは必死で巨人と戦って手に汗握る展開の中ギリッギリ勝つもしくは負ける。

リヴァイは違う。その横で3秒とかからずボスっぽい巨人を半殺しにする。

 

敵の巨人が無数の石つぶてをリヴァイの軍隊へ浴びせたことがあった。リヴァイの周りの兵士はそれをくらい、ほぼ全滅する。

リヴァイは違う。リヴァイには何故か当たらない。かすりもしない。

 

強いボス敵とリヴァイ軍が戦うシーンがある。司令塔のエルヴィンが作戦を立てる。その推定50名の軍隊を使った作戦がこうだ。

49名で敵の気を引き、リヴァイが敵のボスを倒す。もはや作戦じゃない。リヴァイ頼みだ。

 

またあるときはボスの巨人が手下の巨人推定20体ほどでリヴァイの周りを取り囲む、しかも奇襲。勝利を確信したボスの巨人はその場を立ち去りながらこう語る。

「自分達には力がある、時間がある、選択肢がある。そう勘違いしてしまったことが…リヴァイ…お前の過ちだ。」

しかしリヴァイはその2ページ後、20体の手下巨人をぶち殺し、ボス巨人の前に現れる。そしてそこから約10ページ後、四肢を切り裂いてズタボロになったボス巨人の髪をわし掴みにして、涼しげな表情を浮かべたリヴァイはこう言うのだ。

 

「まあ、殺しやしねぇから安心しろよ。すぐにはな。」

 

 

 

 

 

 

違う。リヴァイだけが違う。

進撃の巨人に登場するキャラクター達は皆、その差はあれどマリオやルイージとなり、キノコやファイヤフラワーを駆使してなんとか巨大クリボーに立ち向かう。

リヴァイは違う。こいつだけが無敵スターを纏い、一撃であらゆる敵を薙ぎ払う。無双。ポコッポコッポコッという効果音と共に歴戦の強敵が次々と沈んでいく。

 


また、このリヴァイというキャラの立ち位置は他のマンガでもよく見られる「強キャラ」と言われるポジションだが、リヴァイの強さは群を抜いていると思う。

私が好きなハンターハンターで言うとヒソカあたりが強キャラだと踏んでいたが、結局彼もクロロとのタイマンで一度負けている。ワンピースで登場するシャンクスも割と強そうだが、よく考えたら彼は第1話で片腕を魚に食われている。


リヴァイは違う。

リヴァイは負けない。片腕も無くならない。第7巻あたりで一度だけ仲間を庇って左足を骨折(?)したが、次の回普通に歩いてるし、しばらくして調子を聞かれると「割と動くようだ…悪くない。」とすさまじい回復力を見せつけてくる。捻挫くらいの感覚だ。

 

 

 

 

 

 

このリヴァイという男の圧倒的なまでの強さ。これこそが「進撃の巨人」という作品をより面白いものへ押し上げるスパイスとして機能していると私は考える。


進撃の巨人は、ざっくり言うと人間が巨人に蹂躙される世界を描いている。巨人と人間の体格差、理不尽な恐怖に怯え、絶望し、不安に塗れた世界。その中で立ち上がる男達の勇姿。そこに絡みつく人間の浅ましい欲、陰謀、葛藤。それらを精巧な時間軸操作とトリックで描きあげる。その辺りにも確かに魅力を感じた。


しかしそれらを一切ものともしない奴が一人いる。

リヴァイがいる。


その安心感たるや。

常にドキドキしながら読んでいる読者もリヴァイが戦えば安心する。


巨人は恐ろしい。見つかったらひとたまりもない。その巨人を操る巨人までいる。超コワイ。

でも安心して欲しい。リヴァイがいる。リヴァイだけは誰にも負けない。屈しない。


登場人物は次々と無惨な死体に変わっていく。共に訓練を積んだ仲間、信頼を培った兵士団のみんな、途中から出てきた今にも殺されそうな雰囲気を出してるモブ。みんな死ぬ。すぐ死ぬ。すぐ巨人に食われる。もうやだこんな世界。この世界に希望なんて…、

ある。リヴァイがいる。リヴァイだけは死なない。他の全員が死のうとも、地球から生命が消えようとも、リヴァイだけは悠然と立ち、鋭い眼つきでこちらを睨んでいる。


この腐りきったディストピアの中で我々を冷たくも優しく包み込む光。それがリヴァイ。この強さ。パワー。安心感。抱擁感。


不安な世界観と安全安心のリヴァイ。この対比が、ささやかな勧善懲悪の予定調和が、私の中の進撃の巨人をより高い評価へと押し上げた。

 

 


 


さあ、安心して最新29巻を読もう。そろそろエレンが死ぬかもしれない。アルミンがミカサを食べるかもしれない。ジャンが川で溺れ、エルヴィンが息を吹き返し、コニーが原爆で世界を火の海に変えるかもしれない。

 


それでも、リヴァイだけは生きているから。

明日から使えない多分NGな就活術

 

 

プリズンブレイクというアメリカのドラマを全部観た。

 

主人公は建築技師マイケル・スコフィールド。彼の兄リンカーンバロウズは副大統領の兄弟殺しというありもしない罪を着せられ、死刑を言い渡される。そんな無実の兄を救うべく、マイケルは兄が収容されている脱獄不可能と謳われた無敵要塞フォックスリバー刑務所に囚人として潜り込む。彼の天才的頭脳により周到に用意された作戦、綿密に練られた計画はさながら白鳥の如く華麗に舞い、一方で襲いくる数々のイレギュラーや看守の目をかいくぐる緊迫感は我々をフォックスリバーに閉じ込めたように離さない。そして囚人同士の醜い人間ドラマ、その中で生まれる男達の熱い絆。血、裏切り、殴り合い。ひしめく陰謀、陰でうごめく国家権力、それを徹夜で見る私。就活が終わってからにしてほしい。

 

 

こんにちは。

ただいま絶賛就職活動中の者です。軽く状況を説明するとESを出しては祈られ、面接をしては祈られ、神仏の類いか何かと勘違いされる傾向が強いので首をかしげています。


さて、今回はそんな経験豊富な私が、特に役に立たなかった恐らくNGであろう就活テクニックを、実体験に基づいて分かりやすくソリューションしていこうと思います。

 

 

 

 

 

 

〜ES編〜

 

 

いわゆる履歴書ってやつです。

名前や経歴を書いて終わり、ならいいのですがやたら面倒くさい設問があったりしてかなりカッタルイです。

例えば、

 

 

 

 

 


設問

世の中のまだ名前のないもの・ことに対して共感を呼ぶような名前を付けて下さい。また、その理由を200字以内で説明して下さい。

 

 

 

私の回答

名前:

迷名(めい-めい)


説明:

なんとも言えない事象に対して名前を付けたいけどなんとも言えなすぎてこれと言った案が思いつかず、混迷を極める様子。諸説あるが、「命名」と「迷う」とが組み合わさって生まれた造語という説が濃厚。用例:エントリーシートで「まだ名前のないものに対して名前を付けなさい」とかいう設問が出て、とても迷名する。

 

 

 

 

 

 

落ちました。

何も思いつかないことを逆手に取った、意表を突く回答。一見、難しい問題を一休さんの如くヒラリとかわしているかのように見えますが、結局のところ何も思い付いてなくね、という点が評価されたものと思われます。

令和の就活で江戸時代のユーモアは一切通用しません。真似しないようにしましょう。

 

 

 

 

 

 

設問

無人島に何か一つ持っていけるとしたら何を持って行きますか?また理由も教えて下さい。(200字)

 

 

私の回答

持っていくもの:

モーセ

 

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理由:

旧約聖書によると、かつてモーセはエジプト軍からヘブライ人奴隷を逃すために海を割り陸路を降臨させた、とある。彼を連れて行けば、海を割ることで簡単に脱出が可能。

懸念点としては割った海を歩いている間、ずっとモーセと二人きりなので気まずい、という点が挙げられるが、モーセは「十戒」という著書を出版しているのでその制作秘話や印税とかの話をすると盛り上がって多分良い。

 

 

 

 

 

 

落ちました。

何か一つ「もの」と言われているにも関わらず、大胆に「人物」しかも実在すら怪しい故人を起用することで独創的な発想力を見せつけた見事な回答、と言いたくなるところですが落とし穴があります。

モーセがアリなら最早何でもアリです。ゼウスとかキリストとかドラえもんという、より有能な上位互換に敗北してしまいます。これはそういう幼稚な回答と大して変わりがないのです。世界史の知識をひけらかしている感も鼻につき、その点で高い評価を受けた結果落選したとも考えられます。

いずれにせよ、こういう中途半端なウケ狙いは容赦なくふるいにかけられます。真似しないようにしましょう。

 

 

 

 


〜面接編〜

 

続いて面接。

知らないおじさんと強制的にトークをさせられる恐怖のイベントです。

話しやすい人にあたればいいのですが、お堅いおじさんに当たると大変なことになります。

 

 

 

 


面接官:こんにちは。よろしくお願いします。

森:こんにちは森ですブログを書いてネットに晒してウハウハしています。よろしくお願いします。

面接官:ヘェ。見てもいいんですか?

森:どうぞ。

面接官:オススメのやつとかありますか?

森:えーと、特にオススメできるようなものはありませんがコレとか個人的に面白いです。

面接官:ヘェ…?

 

 

 

 

面接官:…アンパンマンミュージアム

森:はい。

 

 

 

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面接官:……これは誰ですか?

森:友人のツノダくんです。

 

 

 

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面接官:彼は何でこんな格好なの…?

森:この異世界感が面白いと思ったので。

 

 

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面接官:……分かりました。(真顔)

 

本来ならここで爆笑を頂戴する予定でしたが、全く刺さっていません。分かりましたって何。何かを「分かった」らしいのですが、何をアンダスタンドされたのでしょうか? 怖い。

 

 

 

 


森:いや、あの、他にもメディアに寄稿したりとか結構頑張ってます。

面接官:検索すると出てくるの?

森:はい。どうぞ。

面接官:これ?

 

 

 

 

面接官:恋愛に悩む男子は虫を食べてみるのがよいのではないか…? なんで?

 

森:いえ、それはあの、アレです。家に出た虫を倒すだけじゃなく、あの、食べればモテる?んじゃない? 的な。


面接官:それはヤバくない?(微笑)


森:まあ、ヤバいですね。


面接官:うん。(冷静)

 

森:はい。

 

 

 

 

 

落ちました。

「筋肉質な男性と怪しいブログをやっており部屋に虫が出たら倒した上で食べる危険人物」というレッテルを猛烈に貼られ、残念ながら貴意に添いかねる結果となりました。

勝敗を分けたのは明確に面接官の堅さです。堅い。堅いわ。全然話しが噛み合ってないもん。アンジャッシュのコントぐらい噛み合ってない。本当に家に出た虫食べる訳ないじゃん。軽いジョークじゃん。もはやその堅さすごいわ。こちらこそ鉱物界での益々のご活躍をお祈りするわ。

真似しないようにしましょう。

 

 

 

 

 


以上です。

就活生の皆さん、プリズンブレイク、オススメですよ。

アルバイト選びにおいて最も大切な唯一つのこと

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その職場は家から近かった。

徒歩で8分、チャリなら3分。ただそれだけの理由だった。

 

大学三年の2月。

私は某大手アパレルメーカーの、郊外に建てられた中型支店でアルバイトとして働き始めた。割と誰でも知ってる、例の、服屋。

そして約2年間そこでお世話になり、今年の3月下旬、つまり先週だ。学校の卒業を待たずしてその職場を、退職した。

 

今回は題名にもある通り、アルバイトの話をしようと思う。

断っておくが、これは有益な経験談や、全員に共通して価値のある教訓の類では決してない。だが備忘録として、ここで学んだ事や退職を決断した理由等を、私の2年間の思い出と共に書き残しておこうと思う。

誰かの、例えばこれからアルバイトを始めようという人の、ささやかな後押しにでもなれば幸いだ。

 

 

 

 

 

その職場は率直に言って居心地が良かった。

 

パワハラ気質の上司が悪政を働いていたとか、サービス残業の続く怠慢な業務体系に嫌気が指したとか、アルバイトの範疇を超えた鬼の重労働を強要されるとか、そんなネガティブな理由で辞めた訳ではない。

上司は私に本当に優しく接してくれたし、サービス残業は一切無いし、家から近かったし、業務だって大して難しいことは無い。

レジ打ち、品出し、商品整理。モップをかけたり、入り口のガラスを拭いたり、トイレを掃除したり。誰にでもできる、簡単な仕事ばかりだった。

 

それでも学んだことは、沢山あった。

 

 


 


私は仕事が出来なかった。

それはもう恐ろしく出来なかった。


レジに入ればノロノロと商品をスキャンし、瞬く間に長蛇の列を形成する。陰で「蛇使い」とイジられていた可能性まである。


お客様にこの商品は何処か?と問われれば、「あ~何処でしょうね~?笑」と言って一緒に大捜査が始まる。大抵の場合、お客様の方が先に見つける。


この商品を15分で売り場に出せと言われれば、当然のように30分くらいはかかる。しかも、出す場所を間違えてたりする。たまに、出す商品自体を間違えてたりもする。


トイレ掃除を15分でやれと言われれば、大体5分くらいで適当に済ませて、残りの10分は自分がトイレをしている。


スタッフは売り場に出ると、商品の宣伝を、それは詳しく、どこがどうお買い得で素敵なのかをお客様に呼び込むが、私はそれを「いらっしゃいませ」と「どうぞご覧下さいませ」という2つの初級呪文のみで回避してきた。あとは、死んだ顔で間違った商品を品出ししている。

 

 

書いてて悲しくなってきたのでこの辺りにするが、私の仕事の出来なさときたら凄かった。間違いなくこの店舗のエース。これ程向いてない仕事があるのだなあ、と感心したくらいだ。


しかし、それでも2年間。

このバイトを続けてこれたのは、渡部(ワタナベ)という後輩の存在があったからかもしれない。

 

 


 


渡部は仕事が出来た。

それはもう恐ろしく出来た。

 

私が入社して約3ヶ月後、彼は流星の如く現れた。高身長で韓流アイドルのような顔立ち。瞬く間にありとあらゆる仕事を習得し、上司達の人気をたちまちかっさらっていった。


レジに入ればテキパキと列をさばき、商品の場所もしっかりと把握している。15分でやれと言われた仕事は10分でこなし、出す場所や出す商品を間違えたりしないし、多分トイレ掃除中にトイレはしてない。


私の方が先輩なので初めのうちは「ここはこうやるんだぞ」と教えていたが、そのうち「ここはこうやるんだぞ」と教えたら、「森さん違いますよ、ここはこうです」と逆に教えられた。

「そういう見方もあるな」と言ってブルブルと震えた。


控えめに言って渡部は栄華を極めており、私は困窮を極めていた。本来であれば、その明らかな格差を憎み速やかに絶交するだろう。


しかし、あの出来事を境に、我々は一気に打ち解けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

渡部はサイコパスだった。

休憩中、彼女欲しいよね~、という何気ない会話をしていた所に、彼は隕石の如く突然、恐ろしい発言を投下してきた。

 


「店がめちゃめちゃ忙しい時に店長の指示を全て無視し、おもむろに掃除機をかけ始めたり窓を拭いたりするなどのサイコパス行動を取りまくってバイトをクビになるの、楽しそうだよな~」

 

 

 

 

 

いや、絶対楽しくねえわ。

やべえわ、コイツ。店が忙しいときに、店長の指示をガン無視!?掃除機!?窓拭き!?何言ってるの。完全にイッてるよ。おめでとう、君がキングオブサイコパス

 


私はそう感じ、一気に彼との距離が、縮まった。

 

そう。私は、変なやつが好きなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

私もサイコパスだった。

 

店がめちゃめちゃ忙しい時に店長の指示を全て無視し、おもむろに掃除機をかけ始めたり窓を拭いたりするなどのサイコパス行動を取りまくってバイトをクビになる。このインポッシブルなミッションの遂行に向け、我々は一丸となり、慎重に話し合いの場を設けた。

 

 

 

森:掃除機をかけるというのはいくらなんでも常軌を逸脱しているのではないか? 入り口ガラスを拭く程度にとどめた方が穏便だろう。


渡部:騒音の観点から見てもそうですね。入り口ガラスを黙々と二人で拭いているくらいの方が狂気があっていいと思います。


森:それと繁忙期に実行するというのはいくらなんでも無謀なのではないか?


渡部:いえ、そこは譲れません。繁忙期にやるからこそ意味のある行為です。暇なときにガラスを拭いているのは、ただの綺麗好きです。


森:ふむ。一理ある。

では雑巾を両手に持って拭くというのはどうかな?


渡部:素晴らしいです。二刀流ですね。

では計画はこうです。まず、森さんがインカム(スタッフが持ってる連絡用の無線)で「メンズ側の入口汚いので入口ガラスはいってもよろしいでしょうか?」って言って下さい。


森:分かった。


渡部:そしたら、僕も「ウィメンズ側も汚いので一緒にやっていいでしょうか?」と言います。


森:ふむ、それで?


渡部:それだけです。


森:隙が全く見当たらないな。

 


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こうしてブラッシュアップを繰り返し、我々の計画は「店がめちゃめちゃ忙しいときに、おもむろに入り口ガラスを二刀流で拭く」というものに明確化されていった。

 

 

 


 

 

 

入り口ガラスは神格化された。


我々は「いつの日か繁忙期に入り口ガラスを拭きたい」という強い願望を募らせていき、次第にその想いは愛情となり、尊敬となり、崇拝にまで深まっていった。


入り口ガラスは素晴らしい。

入り口ガラスはかわいい。

入り口ガラスこそが全て。

入り口ガラスは全知全能の、神。


いつしか入り口ガラス清掃は、この大手アパレルメーカーの店舗業務のピラミッドにおける頂点に君臨していた。

 


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お客様<<<<<入り口ガラスという圧倒的な不等式を見て我々は頷き合い、勝利を確信して固く握手を交わした。まさに気持ちが一つとなり計画が最終段階へと移行する。その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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別れは突然だった。

 

渡部が、今日で店を離れる。

まさに夕立の如く、大きな雨を降らせた彼は嘘のように去っていった。

本当に急だった。

今日って。

今日が、最終出勤だと通告された私は、もう為す術など無いじゃないか。なんでもっと早く言ってくれなかったんだ……渡部……!!

 


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明日から仙台の○○店……。

駅前にある、同じ会社の超大型店舗だ。異動になったらしい。え、バイトに異動とかいう概念あんの? お前、バイトだよね? すごくない? おめでとう。普通に。

 

 

こうして我々の野望は潰えた

 

 

 

 

 

 

 

……かのように思われた。

 

 

 

 

 

 

 

渡部は諦めていなかった。

 

 

 

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なんと言うことでしょう、入り口ガラスの存在しない○○店に。入り口ガラスを建設し、その上で拭くというのだ。しかも、建設中は、エアーで拭く、だと!?


渡部。お前はやっぱすげえよ。すげえやつだよ。お前こそが、真のキングオブサイコパスだよ。

私は「渡部」という生き様を心から尊敬し、また、私たちの計画の不死鳥性を非常に誇りに感じていた。

 

後悔は、不思議と無かった。

 

 

 


 


渡部は最後に手紙を置いていった。

 

 

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『入り口ガラスを一緒にやる夢がついえてしまい、残念に思います。またどこかで出会えた時、一緒にできることを祈っています。渡部』

 

 

ふ。夢がまだついえていないことは、お前が一番よく分かっているんじゃないか? 渡部。


そうだよ。場所なんて、関係ない。また出会った時に、その場所にあるガラスを拭けばいい。コンビニで会ったらコンビニのガラスを。居酒屋で会ったら居酒屋のガラスを。仙台駅で会ったら、シンボルのステンドグラスを。ガラスが無ければ、エアーで。二刀流で。一緒に拭けばいいさ。

 

それと、こちらからも一つ言わせてほしい。

「休憩中、いつも一緒に下らない話をしてくれて、ありがとう。今まで本当に楽しかった。」

と。

また会おう、渡部。

 

 

 

 

 

 

 

 

さて。

 

 

 

上述ように私はアルバイトの休憩中死ぬほど下らない話をして楽しんでいた訳ですが、私がバイトを辞めた理由に上述のお話しはもちろん一切関係がありません。

 

その真の理由は、
家を引っ越して店舗からちょっと遠くなって、通勤が普通に面倒。

という、ただそれだけ。


そう、アルバイト選びにおいて最も大切なのは、時給でも職場環境でも陰謀を企てる友人でもなく、距離。近ければ近いほど、よい。あとは適当に友情が芽生え、為るように、為る。

 

それではこれからアルバイトを始める新入生の皆様、ご健闘をお祈り申し上げます。

 

インフルエンザの恐ろしい合併症・中二病

 

 

殺気。


穏やかに晴れた火曜日の朝9時。明らかに私への敵意を持って発せられるそれは、量として僅かではあったが、私の目を覚まさせるには十分な気迫を含んでいた。


身を起こすと「彼」はベッドのすぐ側に立ち、腕を組み、こちらへ鋭い眼光を向けて、ニヤニヤ、としていた。

 

端正な顔立ち、つり上がった目、スラリとしたモデル体型、金髪をポマードで固めたヘアスタイルに白のタキシード……。

 

お、お前、もしや……。


私はついに時が満ちたことを悟った。


永きに渡る闘いの輪廻が、再びこの時代に蘇り、また大きく鼓動を始めたのだ……と。

 

 

 

いや。


しかし、勘違いかもな、とも思った。


そうだ、勘違いだ。そうに違いない。と思った。


トイレに行ってもう一回寝れば、きっと平穏な日常が戻ってくると、そう信じていた。


そして私は、白スーツの金髪男性を悠然とスルーして用を足すと、再び眠りについた。

 

 

 

 

 

 

次に目覚めたのは朝の12時だった。もう朝とかいうレベルの時間ではない。さっさと学校に行った方がいい時間帯だ。


急いで身体を起こす。

しかし、ここで同時に臨戦態勢にも入る。

 

 

やれやれ、これはこれは。

 

途轍もない存在感と共に、一人の男がベッドの横で腕組みをしていたことが、その原因だった。

 


白のタキシードはそのままに、その金髪は天に向かってそびえ立ち、3時間前とは別人のような只ならぬ殺気を放ち、途轍もない腕組みをして、それが仁王立ちしていた。腕が複雑に組み合わさり、神秘的に絡み合い、知恵の輪の様相を呈した、途轍もない腕組みをしている。途轍が、全く無い。

 

 

「彼」だった。

 


「どうやら、夢……じゃないみたいだな……。」

 


私がそう話しかけると、彼はゆっくり微笑み、響きのある透き通った声でこう言った。

 


『また会えて嬉しいよ……さあ、殺ろう。』

 


彼と会うのは初めてでは無かった。

そしてこれから始まる、己の肉体、精神、そして世界の時間軸やらパラレルワールドの亜空切断やら何やらを掛けた熾烈な1 on 1(サシ)、どちらかが死ぬまで続く過酷なデスマッチから逃れられないこともまた、知っていた。

 

 

 

 

 

 

一陣の風が吹いた。

 


先に動いたのは彼だった。彼は絡まった腕を巧みに操り、懐から何かペンのような、スティック状の物体を取り出すと、私へ向かって一閃。投げつけた。

 


スティック状のそれはブーメランの如く回転したかと思えば、美しい弧のような軌道を描き、そして、私の左脇に突き刺さった。

 


デュクシッッッ………!

 


「ぐっ…。」

 


スピード重視の先制攻撃か。さしてダメージは無かった。過去の彼の実力を考えると、前菜としては少し味気ない。ていうか、本当にこういう音って鳴るんだ。

 

私には余裕があった。

 


「どうした、その程度か?」

 


スティック状のそれを左脇に刺しながら、彼を挑発してみたり、する。苦戦を強いられながらも、これまでの闘いで悉く勝利を収めてきた王者としての貫禄を見せつける為だ。

 


『クックッ……クックックッ……』

 


しかし、彼は不気味な満足感を湛え、肩を揺らしていた。

この状況で、笑った、だと?

 


「何が可笑しい。」

 


『クッハッッハ、んー、これは傑作だ。まだ自分が置かれている状況に気付かないのかい?』

 

 

 

な…ん……だと……?

 

 

 

『フフフッ、おめでたい君の為に一ついいことを教えてあげよう。』

 

 

 

いいこと…?

 

 

 

『君の脇に刺さった、そのスティック状の物体を、目を凝らして、よく見てみるといい…。』

 

 

こ…。

 

 

これは……。

 

 

 

『フフ、ボクからの軽ゥいオードブルは、お口に合ったかな……?』

 

 

なるほど…こいつぁ、ちと厄介だな…。

 

敵の力量も、遥か怪物。

 

 

 

 

だが。

 

 

下らん。

 

勝利の光とは、自分の能力(チカラ)、そして自分の運命(サダメ)を、最後まで信じた者にのみ、輝くものだ。

 

疑わないこと。

 

それこそが真の強さ。

 

私は脇のスティックを静かに抜き取り、信念に満ちた笑みを浮かべ、こう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初売りに押し寄せる方々はイノシシを意識しているのか

 

 

 

それはもはや人間ではなく、イノシシそのものだった。猪突猛進とはあの事を言うのだ。

 

 

 

 

 


今年、人生で初めて初売りで「売る側」の立場に立った。

某有名アパレルショップでアルバイトをしており、初売りの人員が足りないとのことで不本意ながら強制招集されたのだ。


と言っても、これまで本格的に「買う側」として参加したこともなかった私は

 


初売り? みんな家でゴロゴロしてんだから人なんて来る訳がないやんけヨユウだわ

 


と高を括っていた。

 


甘かった。

 

 

 

開店早々、アホみたくお客様、来た。

 


つか、並んでんですよ。

 


めちゃめちゃ並んでるんです、寒い中。

 

衝撃だった。本当にあるんだこういうの、って。ニュースで見たことあるやつじゃん。

 

 


いや、確かにヒートテックめっちゃ安くなってるけど。カシミヤのセーターとか半額やけど。そんなカシミヤのセーター欲しい? なんなの、ヤギなのか君達は。仲間の毛を集める復讐と憎悪の塊なのか。

 


そんなツッコミを入れている隙にも彼らは売り場を縦横無尽に疾走する。

 


いやまて。違う。あの脚力は。あのスピードは。あの審美眼は。あの突進力は。

 


ヤギなんて生易しいものじゃない。

 


そうだ。

 

 

あれは。


あれは、イノシシだ。

 


売り場を駆ける彼らが纏うオーラは、背後にイノシシの幻獣を具現化させていた。

 

 

なんだ。なんなんだ彼らは。

今年の干支を、イノシシを意識しているとでもいうのか?


と、そんなことを考えていたのも束の間、イノシシによる長蛇のレジ列が生成される。

 


イノシシであり、長い蛇。

 


それはもはや最凶のクリーチャーだった。

 


我々、正月で平和ボケした人間に敵う道理なのどない。なす術なく、その猛進と毒牙に晒され、ただ、ただ、疲れた。今、ひたすらに、めっちゃ眠い。

 

 

 

 

 

弊社の初売りは明日も続く。明日もまた、彼らは津波のように押し寄せるのだろう。

イノシシのオーラを纏い、売り場で暴れ回り、辺り一面を、一人暮らしの男性の部屋みたくして、静かに去っていく。

 


まあ、それはそれで我が家に帰って来たような、アットホームな感じが出ておれは嫌いじゃないけど。

 


でも、それを綺麗にしないとおれが社員さんに怒られる。全くもって不条理だ。求人広告では「アットホームな職場」と謳ってたくせに。

 

 

 

あ。明けましておめでとうございます。

 

異常にバス来ないどうなんってんのこれ

 


こんにちは。

 


現在、氷点下3℃の極寒吹雪の中、30分以上バスを待っています。

 

 

 

寒い。寒すぎる。

 


はじょうに寒いうえに寒い上に寒い。寒すぎてごじを直す気力もないしへんかんもめんどくさい。とにかく端的に言って極度に寒い。

 


最初のうちはファッション性を重視し、コートのフードは被らずマフラーを巻いて凌いでいたが、現在、まず中に着ていたパーカーのフーどを被り、そのうあえからフードのコートを被り、更にそれをマフラーで固定して般若の表情を浮かべガタガターと震えている。完全なる不審者。こわいる。

 

 

 

おそらすここで死ぬんじゃないかという気がしている。いまパトラッシュの気持ちめちゃよく分かる。これは死ぬと思うわ。

 

 

 

ちなみに隣にはパトラッシュの代わりに一緒に40分近くバスを待っている中年の男性がいる。

 


もはや彼とは謎の友情が芽生えている。

 


マブ。どちらかと言うとマブだちですもう。はい。

一言も言葉は交わさずとも我々は固い絆で結ばれている。彼のことはソウルメイト田中と呼ばせて頂こう。

 


ソウルメイト田中の特徴というと

 


隣でめちゃめちゃ震えている。

 


すげえ震えてる。全身で。そよ寒さを表現している。ボディランゲージのスペシャルリストだわり。一言もハッサムせざ絶対寒いって言ってるのが理解可能ですわ。相変わらず流石だなおまえはマジかっけえわもう

 

 

 

その動きがタップダンスさながらである。

タップダンサーなのかお前は。フペインで10年ほどしゅうぎょうを積んで一世を風靡し、よわい50を超えて山籠りかんしゅの正拳突きを経て完全なる羽化をとげた伝説のプロタッパーなのかい?

 


もう凄いよ君のそのステップが。地面との摩擦で火おこせんじゃない?おこせる。田中。お前にならおこせるよ。頼む火を。火をおこしめまろおおおお

 

 

 

 


マジでバスはよ来い死ぬからほんと

お父さんのカッコいい嘘

 

クリスマスだ。

今年も容赦なく予定がないので実家に戻ってきた。

そしたら今朝、もう23なのにプレゼントが届いていた。サンタクロースだ。

 

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靴下。いや柄よ。サンタのセンス。まあありがとう。

 

 


「サンタクロースというおじいさんがクリスマスイブの夜、空飛ぶトナカイのソリに乗り込み、世界中の家庭に煙突から不法侵入しては子供達にプレゼントを配る」

 

という怪しげな伝説は、まあ、多分嘘だ。

明確に存在しないことを証明できた訳ではないが、まあ、多分嘘。

 

 

だって知らないおじいさんが来るって何。全世界の子供に無償でプレゼントを配るって何。どんだけ大富豪なの。

しかも from フィンランド。北欧て。遠いわ。

極め付けは空飛ぶトナカイ? プレゼントよりそいつが欲しいわ。

 

 


今はそんなことを言う冷めた大人になってしまったが、子供の頃はその嘘に熱狂する、敬虔なサンタ教徒の一人だった。12月とか、毎日わくわくして日常生活が超潤っていた思い出がある。

 


このお手伝いを完遂すればきっとポケモンのゲームソフトが。。!!

この宿題を乗り切ればきっとハリーポッターのレゴブロックが。。。!!、!

 


完全に魔法にかかっていた。人生がキマッていた。そういった意味ではとても素敵な嘘だ。

 


初手から「サンタクロースは俺だからよろしく。」と言ってプレゼントを手渡してくる鬼畜な親は、聞いたことがない。


親は子に優しい嘘を付き、一時の夢を見せる。

それを見た子供が成長すると、またその子供に夢を見せる。

 


ずっと続いてほしい、素敵な循環だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、そこでふと思い出したのが、

うちの父はサンタクロース実在詐欺以外にも、よく嘘を付いてたな。しかも今思うとやたらと下らない、素敵でもなんでもない嘘を、常習的に付いていたな。

ということだ。

 

 

 

例えばこんなのがある。

 

 

 

それはある晩、父と私の二人でお風呂に入っているときだった。

突然、父は言った。

 

 


「よし、お前は先に上がっていなさい。」

 

 


え?

 

 


いつもは一緒に上がっていたのに、今日は急に一人で上がれと通告された。当然、なぜ?と戸惑う。

 

 


すると父はこう続けた。

 

 


「お父さんは鏡の中を通って上がるから。先にドアから上がっていなさい。」

 

 

 

 

 


は?

 

 


な、なんだ、、この中年小太りの、この裸の男性は何を言っているんだ、、?

 

 

 

 

 


「いや、だから、お父さんはそこの鏡から一回鏡の世界に入って、そんで洗面所の鏡から出てくるから。それ他人に見られちゃダメだから。先に上がっていなさい。」

 

 


風呂場の鏡を指差して、そう言った。あたかも当然かのように、言った。1+1=2でしょ、くらいのノリで豪語していた。

 

 

 

そして、当時まだ青かった私は、それを信じた。

アホみたく信じた。

 

 


す、すすす、す、すっげえええっっ、、!!!!。。!

か、鏡の中を、、??!。。、?!

ドアがあるのに、、??!!!?

わざわざ???!!!

そんなに容易く鏡の中を移動出来るとでも言うのおぉおおおうおんお??!!!

 

 


これ絶対世界救ってるやつじゃん。星獣戦隊ギンガマンの一員なパターンじゃんとか思ってあっさり尊敬した。

 

 

 

それからと言うもの、私は父に師事し、一緒に風呂に入ってはその極意を学んだ。

自分も鏡の世界に入れる強い男に、星獣戦隊ギンガマンになろう、と固い決意のもと。

 

 

 

「違う。まずは鏡の前で目を閉じて、手を合わせろ。瞑想をするんだ。」

 

 

 

「そうだ、いいぞ。そしてそのまま肩を鏡に擦りつけろ。肩から行くのがポイントだ。優しくだぞ。」

 

 

 

「するとまるで水の中に溶け込んでいくような感覚があるだろ。そうすればもうこっちのものだ。」

 

 

 

そんな、謎の集中講義が開講されていた。

しかし努力の甲斐も虚しく、私は鏡の中へ入ることは出来なかった。

 

 

 

 

 


「まあ、あれだ。鏡の世界はとても広く、深い迷路のように複雑に道が入り組んでいる。子供のお前はまだ入場資格がないかもしれんな。」

 

 


「お父さんのように一人前の大人になれば、いずれお前も必ず入れるようになる。」

 

 

 

 

 

そんな感じのことを言われた。


鏡に向かい、ひたすら祈りを捧げ、必死に肩を擦り付ける息子を見て、彼は何を思っていたのだろうか。どんな思惑が、どんな教育理念があったのだろうか。


サンタクロースの時のように私に夢を見せたかったのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。あるいは本当に鏡の世界を移動できるのかもしれない。まあ、いずれにせよ今となっては正直どうでもいい。

 

 

 

 

 

しかし、もし前者なのだとすれば、その循環を私の代で絶やしてしまうのは、少しだけ忍びない気もする。

 

将来のことなどまだ何も考えていないが、私もいずれ結婚をし、子供が生まれ、そして一緒にお風呂に入る機会があるのかもしれない。


その時はいぶし銀な表情を浮かべ、少し声を低くして、神妙な口調でこう切り出すとしよう。

 


「お前は先に上がっていなさい。お父さんは鏡の中を通って上がるから。」